月38万円で暮らしてきた人が、月13.8万円の施設に入るだろうか

前回、「75歳から医療費が増える」という思い込みが統計と食い違っていた話を書いた。今回はその続きで、直したはずの介護費用に、もっと大きな穴が空いていた話だ。
施設に入ると、生活費は減る
介護費用の計算を作り直したとき、こう考えた。
施設に入っている間は、生活費の一部を差し引くべきだ。 施設に払う費用の中には食費と居住費が含まれている。特別養護老人ホームでは食費・居住費が制度上はっきり区分され、入所者が負担する仕組みになっている。それなのに介護費と生活費を両方まるごと足していたら、同じ費用を二度数えていることになる。
そこで食費を90%、旅行・趣味を80%差し引く処理を入れた。持ち家なら管理費や固定資産税が残るので住居費は45%だけ引く。
実装は正しく動いた。私の設定では、介護期間中の支出が月70万円から下がった。
そして、順序が壊れた
念のため、アプリに入っているモデルケース8種類で検証してみた。介護の3つの経路――「最期まで自宅で」「在宅から始まり途中で施設へ」「早い段階から施設で」――を選んだときの、総支出を並べる。
8件すべてで逆転していた。
介護費が最も安い「最期まで自宅で」が、総支出では最も高い。 逆に、月13.8万円かかる「早い段階から施設で」が最も安い。
在宅を望む人が、アプリ上で最も不利な選択肢を見せられていた。
人は、生活水準をそう簡単に変えられない
原因を探して、ようやく気づいた。施設費が、その人の生活水準にまったく連動していない。
月38万円の暮らしをしている人が施設に入ると、生活費が29万円に落ちる計算になっていた。しかし月13.8万円の施設とは、特養や低価格帯のホームのことだ。
38万円の暮らしをしてきた人が、そこに入るだろうか。
入らない。実際には有料老人ホームで月25〜35万円を選ぶ。施設に入った瞬間、その人が急に慎ましい暮らしに切り替わるという前提を、私は無意識に置いていた。
人は生活水準をそう簡単に変えられない。これはお金の計算をするうえで、かなり根本的な原則だと思う。
施設の種類を、ちゃんと分けて考える
ここで、施設という言葉の中身を整理しておきたい。私も医療業界にいながら、家計の側から見たときの違いを意識していなかった。
特別養護老人ホーム(特養) は公的な施設で、原則要介護3以上。費用は所得に応じた軽減があり、月8〜15万円程度に収まる。ここが終の棲家になる。退所理由は死亡が70.4%、入院が24.9%。合わせて95%が、出るときには生きて自宅に戻らない。
介護老人保健施設(老健) は、性格がまったく違う。リハビリで在宅復帰を目指す中間施設で、3〜6か月ごとに退所審査がある。平均入所期間は約10か月。退所した人の3割ほどが自宅に戻る。骨折から回復して自立に戻る人は、ここを通る。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住) は、そもそも施設ですらない。賃貸住宅だ。国土交通省と厚生労働省の共管制度で、2025年9月末時点で全国に29万戸。安否確認と生活相談が必須サービスで、介護が必要になれば外部の事業者と個別に契約する。入居契約の76%が普通賃貸借契約というデータもある。つまり法的には「部屋を借りている」状態に近い。
有料老人ホーム は民間で、月15〜35万円と幅が広い。入居一時金が数百万円かかるところもある。
この4つを「施設」と一括りにして月13.8万円で計算していたのだから、そもそも無理があった。
修正した
施設費を、統計値を下限として生活水準に連動させることにした。
あわせて、在宅パスにも旅行・趣味の控除を入れた。要介護状態なら、自宅にいても旅行はしない。当たり前のことだが、抜けていた。
これで8ケースすべてが昇順になった。DIE WITH ZERO志向の人なら、施設費は月26.6万円で計算される。
統計はない
念のため書いておくと、この0.45と0.70という係数に統計的な裏づけはない。入居前の生活水準と施設費を結びつけた調査は、おそらく存在しない。
だから算定根拠のページには「⚪推計」と書いた。ただ、月38万円の人が13.8万円の施設に入る前提よりは、はるかに現実に近いはずだ。
残高余命 算定根拠 → https://app.zanyome.com/kyoten/